連載「昔、厚労省はゴールドプランを制定した」

C増える施設ではない施設?

ゴールドプランが制定されたのは1989年、消費税導入と同時である。増税のたびに、その言い訳に高齢化や介護が利用されるが、納得のいかないところが多い。その後1994年に新ゴールドプラン、2000年には介護保険法施行と合わせてゴールドプラン21が制定された。1989年のゴールドプランでは、在宅が基本とされ、施設系サービスは特別養護老人ホームと介護老人保健施設とされたが、5年後の新ゴールドプランでは生活支援系サービスが登場し、グループホームなどの施設系ではない集団生活住居がプランに加えられた。

これらに先立った1981年の国際障害者年は、大きな盛り上がりをみせた。これを契機に国際社会に社会的弱者の様々な問題を提起したが、中でも社会的弱者は施設に収容されがちであったことは大きな問題とされた。すなわち障害者を始めとする社会的弱者の社会参加は重要な課題となり、その後各国の社会制度に大きな影響を与えている。だから、高齢者問題のプランを作る場合も施設収容に重点を置くのではなく、社会参加できる生活形態をプランすることが必要不可欠になり「生活支援系サービス」の登場となったのであろう。

一方、特別養護老人ホームと介護老人保健施設への入所待ちは多く「まず入所は不可能」が常識とされてきた。これを「家族が介護するのは無理」という声が大多数と解釈した行政が、「生活支援系サービス」や国交省と協力して推進する「サービス付高齢者向け住宅」で、その要求に答えようとしているのは当然と言える。これらの施策は、社気的参加≒住みなれた地域で暮らす≒地域密着、小規模化≒きめ細かなサービスと意味づけし、特徴としている。だから既存の施設とは異なり地域密着「生活支援系サービス」だという位置づけが成り立つというのであろうが、既存の施設にすれば失礼極まりない言い回しだ。このように複雑な制度の設計や計画には、大変な能力や時間が費やされただろうから、それには敬服する。

しかし、このプランには、地域密着とうたいながらも地域住民や社会的資産が位置づけられていないのが気にかかる。このプランで、どれだけの範囲を住み慣れた地域としているのかはわからないが、それを距離で考えているなら間違いだろう。「住み慣れた」とは、生活の範囲であり、その生活行動範囲で出会う人や物である。日常の中でどこそこの、又は誰々のお婆ちゃんやお爺ちゃんと認識されて交流することが生活の安定なのである。

地域によって、地域社会の機能のあり方や強さには違いがあるだろうが、個々人がその地域社会にどのように関わりをもっているかが、その地域社会の安定度につながると考えても差し支えなかろう。だから、ある地域に「生活支援系サービス」が登場した時、その「生活支援系サービス」の誰がその地域社会にどのような関りを持とうとするかが問題ということになると思う。

さて、最近の厚労省の話として、大災害が発生した場合、特に独居の高齢者の安全確保にその地区の介護事業所を動員しようとの構想が発表された。これの言う介護事業所とはどのようなものを言うのか分からないが、だいたいの事業所ではその事業所が担当する利用者さんの安全確保で手一杯と思われるので、よく分からないところである。

近年の経験でも、浸水などの災害が名古屋を襲ったことがあった。その時、実際に独居高齢者等の安否確認や非難を行ったのは、民生委員さんや町内の人、消防団の人であった。

災害などの非常時は時を選ばない、だから日頃から地域社会がどのように機能しているかが重要であるし、それと我々介護職がどのような関係を持つかも重要なことである。私たちの訪問介護は、良くも悪くも地域密着以外の何者でもない。特に独居の場合は、私たちが訪問していない時間帯はすべて地域の人たちにお願いするしかないのだ。逆なことを言えば、認知症などで、地域から「火災の危険があるから、独居の継続は難しい」とされれば、生活の継続を断念しなければならないのだ。だから、私たちホームヘルパーは特に独居の利用者さんを訪問する場合、ご近所との挨拶や情報収集を欠かさないようにするのが肝要である。「こんにちは、お世話になります。何か変わったことがあったらお知らせください。」と名刺を渡すような具合だ。

名古屋あたりでも、この「生活支援系サービス」の「グループホーム」や「小規模特養」が多数建設され、その入居?入所の勧誘に余念がない。知り合いのケアマネさんによれば、お金に余裕のある人は、特養や老健から、有料老人ホームを含めた新しく出来た「生活支援系サービス」などに転居していると言う。理由は食費やホテルコストの自己負担分を考えると、転居してもさほど自己負担分の増加がないこと、設備や建物の老朽化が上げられるという。結果それらの施設に空きが出来て在宅の中から入所が決定されるが、自己負担の支払いに心配のない生活保護の人が多いような気がすると言っていた。施設経営の難しさもわかるが、腑に落ちないことである。

それにも増して、「生活支援系サービス」をはじめとする施設?の経営者はいち早く満室にすることを第一としている。建設費の借り入れや、運営基準に達するための人件費などの運営費は待ったなしだろうから、当然と言えば当然のことだ。すなわち、建設すれば満室にすることが第一になり、本当に施設入所が必要かは二の次になりはしないかが心配なだけである。

今後、「自傷他害の恐れがある」など、どうしても施設入所が必要な人は増え続けるだろう。だから、このような施設?建設がイタチゴッコにならないかも心配なところである。そのあたりは行政の方々もおわかりと思うので、その思案に期待するところである。