自転車と100円ショップ

 

自転車と100円ショップ
私にはキャッチボールの相手をしてくれる若い友人がいた。彼は建築専
門学校の生徒で、毎夜コンビニでアルバイトをしていた。話すことが苦手
のようだが、私の「おやじギャグ」の連発にもよく耐えて付き合ってくれた。
ある朝、そのコンビニに買い物へ行くと、彼が通勤に使っている自転車が
パンクしたと言う。
「そんなの百均で売っているパンク修理セットで直せるだろ。」
「僕やったことありません。」
「お前、パンクも直せないのに家を建てるつもり?」
「はぁ?」
「まぁいいから、百均行ってこい。俺が教えてやる。」
「それがパンクしてからも乗ったのでチューブもダメかも・・・。」
「チューブは100円とはいかないが、何インチか調べれば買える。確か2
6インチ程度ならホームセンターで1,000円位だぞ。」
「でも工具が・・。」
「そんなの俺が貸してやる。」
そんなやり取りの数日後、彼は工具を借りにきて、立派に1人でチューブ
も交換した。
今は何でもお金で手に入り、修理なども全て他人にやってもらう時代だ。
しかし、私の子供の頃は大人に教えてもらい自分でやったことも多かっ
た。
苦労もしたが、修理できた時の達成感は今でも忘れられない。社会人に
なっても、その心持は私の場合大切なものだった。私は、工場の電材設
備の保守の会社に入社したので20歳前から現場を任されることもあっ
た。ただ、気にかけてくれる厳しくも優しい先輩に恵まれていた。夜、怪し
げな所にも飲みに連れて行かされたが、仕事以外の様々なことも教えて
もらった。今考えると、会社という組織の中で大人としての生き方を教えて
もらったように思う。「否、まだまだ大人になってないかも・・。」しかし、この
頃は仕事も派遣などが多く、会社で人を育てるということがなくなったと聞
く。
前述の彼は、建築を学び大工になりたいと言っていたので、友人の大工
を紹介したこともあった。結局、中堅の建設会社に就職することになり、も
う1年以上が過ぎている。彼はどんな大人になっていくのかと、私はそのコ
ンビニに行くたびに思いをよせている。