湯船と小便



湯船と小便
 平日の午後、あるスーパー銭湯に行くことができた。平日の午後のせい
か客も少なく近所の常連ばかりのようだ。服を脱いで浴室に入ると、湯船
に立って「浮かぬ顔」をしている若者が目に留まった。「浮かぬ顔」であ
る。私はとっさに「こら、やめろ!」「しちゃダメだ!」と叫んだ。しかし、時
遅し。若者は湯船に放尿したかと思うと別の湯船にいるおじさん数人の所
に逃げ込んだ。私の声にびっくりしたこともあるのだろうが、その勢いは早
かったし、その行動に私も驚いた。
 すると、そのおじさん数人の中の1人が放尿された湯船にすばやく入り
「この子は病気なんだ、勘弁してくれ。」と言いながら、放尿のあったあたり
のお湯を勢いよくかき出した。そんなのかき出しても、小便を汲み分けて
出すことなど出来ない。無駄だと思いながらも大体の状況がわかってき
た。
そのおじさんは私に近づき話をしてくれた。「この子の親父は今サウナに
入っている。」「この子は病気だけど、いい子だ。ただ親父が甘やかすか
らこんなことをするのだ・・・。」「甘やかさなければもっと良くなった例も知
っている。」云々・・・。そして、この放尿は時々あることのようで、常連にと
っては珍しいことではないらしい!?
今から30年以上前、私が社会人なりたての頃あるボランティアをしてい
た。自閉症の幼児を毎週土曜の午後、公園に集めて遊ぶだけのボランテ
ィアだった。その頃、自閉症はまだはっきりと障害の一つとは認められて
おらず「親の育て方が悪い」とか「愛情が足りない」と言われていた時代
だ。あれから30年以上、何も変わっていないのか、それとも勇気を持っ
て?無頓着に?隣人の力を借りて、彼も湯船に通えるようになったの
か?
 こんな時、介護職である私は恥ずかしながらどうしていいのか分からな
かったし、今も分からない。しかし、今回の自立支援法の施行で、障害者
施設は利用者自己負担分を徴収したり、職員を減らしたりで大変だと言
う。障害者は施設に行けばいいなどとは思ってもいないが、障害を持つ者
が一般社会で生活することの困難さを考える午後であった。