子供の頃恐かったこと

  
子供の頃恐かったこと
 私は祖母に育てられた。昔からいい子ではなかった私は、よく腰紐で柱
に縛り付けられて叱られた。近所でも言う事を聞かない子供は押入れに
入れられたり、夜に家から放り出され、叱られていたのをよく覚えている。
中でも外に子供を出して、泣き叫ぶ子供を放って置くやり方は騒々しいの
で、「また○○ちゃん叱られている。」と近所にも分かる日常の出来事だ
った。子供にとって押入れの暗さや、夜の暗さは恐怖だったので、そのよ
うな叱り方があったように思う。なにしろ子供の頃は、暗いのが恐かっ
た。その頃は、大人でも夜間の外出は控えたし、門限なども厳しかったよ
うに思う。
心理学では、心の世界を現実の世界と空想の世界に別けて考えることが
ある。空想の世界が楽しく希望に満ちたものなら何の問題も無いが、そ
れが恐怖や不安に満ちた世界であればその人の現実生活にも影を落と
す。それでも、その恐怖や不安に満ちた空想の世界が心の中の空想の
領域の中だけに留まってくれていればよいが、現実と空想の境界線を越
えてしまうようなことになれば、その人の現実生活にも支障が出てきてし
まうと言う話だ。
そして、恐怖や不安に満ちた空想の世界を理解するために、死後の世界
や夜の闇を引用したりする。恐怖や不安に満ちた世界、死後の世界、闇
の世界は、いつどこから妖怪のような得体の知れないものが現れるかも
しれない世界を連想させる。その世界はきっと人類発祥以来、人類と共
にあったと思う。それはきっと人間が言葉を獲得したこと、言葉で想像し
経験を伝え考えることが出来るようになったことと密接な関係があるだろ
う。
考えてみると、私の子供の頃には夜の闇だけでなく、日常の傍に恐いも
のが沢山あったような気がする。悪いことをするとやって来る「鬼」が恐か
ったし、「死んだらどうなる」などの話も恐かった。死ぬことも今のように病
院で迎えるのではなく、自宅で看取られることが多かったし、葬式も自宅
か近所の寺で行われたので、「死」自体が今に比べれば身近だったのか
もしれない。
しかし、現代社会の恐いものは、日常のすぐ傍にあるにも関わらず、まる
でオブラートに包まれているがごとく分かりにくいので、本当のところは昔
よりもっと恐いのかも知れない。孤独死、いじめや自殺、引ったくりに空き
巣、拳銃に強盗や殺人。そんな事件も多くなりすぎて新聞にも載らないの
が大半と聞く。
昔の夜は、もっと暗かった。しかし、夜でも明るく照らされることが多くなっ
た現代では、そのきらびやかな明かりによって出来る漆黒の影が、気が
つくとすぐそこにある。だから、本当はもっと恐いのだろう。