「仕事が楽しい!」と言われました。



「仕事が楽しい!」と言われました。

こんな言葉を聞いたのは何年ぶりだろう。恥ずかしながら高校卒業後、
社会人になりたての頃まで記憶をさかのぼっても出てこない。私は先日
よく言葉を交わす若い外国人店員に「仕事が楽しい!」と言われて返す
言葉を失ってしまった。店内で倒れたお婆ちゃんのことを心配し、民生委
員に見守りを頼みに行った私に「お婆ちゃんの子供たちは、なぜお婆ち
ゃんの世話をしない」と聞いてきたのもその店員である。その店の環境
が特に良い訳でもなく、店員同士のいざこざはあるようだし、以前には盗
難もあったようだ。
私は、その店員をこのところあまり見かけなくなったので「週に2回位の
出勤にしたの?」と聞いた。すると「他の店でも仕事をしているので、そこ
の予定が無いときにここに来ているから」と言う。私は「それは忙しくて大
変だね」と言葉を返そうと思ったが、先に「仕事が楽しいから!」と言われ
てしまった。仕事や勉強を楽しめる人にはかなわない。なぜなら、楽しけ
ればその人は能力を100パーセント以上発揮するだろう。使命感や頑
張りで対抗しても、息が続かなくなる気がする。仕事が楽しければ、きっ
と生きているのも楽しいだろう。
しかし、私はその言葉を聞いて何か複雑な思いがした。それは、このよう
に「仕事が楽しい」若者が、正当な評価を受けない世の中のあり方に疑
問をもっているからだ。今は真面目に働くことよりも、『楽』して儲けるスタ
イルの方が人気が高い。「なんであくせく働くのだ」「まだ親のすねをかじ
れるだろ」「楽なバイト探せよ」「適当に時間さえ過ぎれば金になる」「これ
からは投資、株だ。」中には法律ぎりぎりの金儲けさえ素人がすることが
当たり前の風潮である。
人気のある利益率が高い儲け話がもてはやされれば、一方できついが
利益の少ない仕事が残る。なかでも昔に比べて増えたのは、年中無休
や24時間営業の仕事もそうだ。そして、それを少ない正社員が、かき集
めた非正社員を使い回してこなしている。
バブル崩壊以降、企業は正社員を雇わない。企業の多くは過剰労働の
正社員とパート、バイト、フリーターで年中無休や24時間営業を回すの
が常識となっている。最近は企業が正規雇用を増やすとのニュースもあ
るが、格安で使える派遣やバイト、パートの使い方を覚えた企業が今さら
本気で正規雇用を増やすとは思えない。世の中が貧富の差を拡大し、
時給や報酬を重視した仕事選びが増えても、仕事をやり遂げた喜びとい
うものは決してなくなりはしないだろう。だから、仕事そのものが楽しい人
は必ず存在する。そして、そのような人達がする仕事が、人や世の中に
役立つ仕事なのだろう。なぜなら、人や世の中に役立つことは楽しいか
らだ。