弁当を捨てる

弁当を捨てる
今から、30年位前の話である。当時、付き合いのあった酒屋の社長が、店舗をまだ
見たことも無いコンビニに改装したいと言い出した。時代は、スーパーの売り場面積
が売り上げに比例するとか何かで、スーパーが売り場面積を競っていた時代だった
ように思う。当時コンビニは、まだ出来だしたころで、その多くは首都圏にあった。だ
から、コンビニ経営者募集の説明会に、知り合いの社長は東京まで出かけた。説明
会でその社長が驚いたのは、「賞味期限切れの弁当は必ず経営者が捨てること」
「出来ないならコンビニを経営することは諦めて欲しい」と言われたことだった。それ
は、コンビニは一店舗では少量多種の品揃えが出来ない。仕入れは多くの店舗の
一括仕入れで各店への仕分け配送に経費がかかる。だから定価販売、定価販売で
ないと利益の確保は望めない。その象徴が、弁当の値引き禁止と言うことだった。
だから、今日でもセブンイレブンでは、賞味期限が迫ってきても弁当は値引きされる
ことなく、捨てられていた。
しかし、今年に入ってコンビニ弁当値引き禁止に公正取引委員会の排除命令が出
て、それをコンビニ最大手のセブンイレブンが受け入れると言うのだ。これは、はっ
きり言って大変な話だと私は思う。なぜなら、値引きはコンビニのアキレス腱だから
である。
さて、30年前の私はその社長から弁当を捨てる話を聞いて単純に「もったいない」と
思った。そして、その「もったいない」と言う気持ちは今も変わりない。単純に世界で
は飢えている人が何十万人もいるのにと言う発想だ。
「もったいない」と言う言葉は2004年にノーベル平和賞を受賞した、ケニアの環境副
大臣、ワンガリ・マータイさんが世界に通じる環境標準語にしようとしているとのこと
で、世界でも通用する言葉になりつつあると聞いている。しかし、その「もったいない」
ことをしてまでも、コンビニが流行ったのはどうしてだろう。それは、年中無休、いつ
でも買えると言う便利さが、「もったいない」より「素晴らしい」と、皆が思ったからに他
ならないように思う。
だが、安売りスーパーに行列が出来だしたように、その価値観が揺るぎだしたよう
だ。便利より価値のあるのは、今のところは低価格だ。しかし、コンビニがあれば、
便利な都市生活が送れるということ自体が幻想であることに皆が気づき出したのか
も知れない。
車が無ければ買い物に行けない所は、都市と呼べるのか?商品の説明が聞けない
店舗は店なのか?コンビニ前での立ち食いは食事なのか?本当の生活しやすい便
利を皆が求めだしたら、生活自体、社会全体が変わるかもしれない。今ある便利さ
を問うてみる時代がやってきた。