は患者さん次第だから、食べることが困難になって退院しちゃう場合も ある」との話を聞いた。 人手が足りない現場では、病院に限らず施設等では仕方ない現実だ ろう。手数の掛かる食事介助は我々ホームヘルパーとしても時間との 戦いかもしれない。しかし、我々ホームヘルパーは原則一対一の介護 だから、行儀は悪いが食事介助しながら記録に目を通したり、些細な 仕事なら出来るので工夫の余地はある。 さて、独居で1人では食事が出来なくて、3食ともホームヘルパーが食 事を用意する場合がある。 そのような生活が数ヶ月も続けば、その利用者さんは新陳代謝を繰り 返し、利用者さんの体の大半は、ホームヘルパーの用意した食事内容 だけで出来ていることになる。だから、細かな計算は出来なくともバラ ンスの良い食事内容が大切だ。しかし、それだけではない。いくら緻密 な計算による食事でも、まずその食事が利用者さんの口に合い、食べ てもらわなくてはならない。更に、よく噛めるか、唾液や消化液の具 合、精神状態、腸内細菌の状態などにより、実際にどれくらい血液内 に消化吸収されるかは未知数である。 食べた物の消化吸収率がどうであれ、食べ物は腸壁を通して血液に 入り込み、必要な作用をするのは間違いない。しかし、私の調べた限 りでは、食べ物の成分がどのようなメカニズムで人体の細胞、筋肉、 骨など人体全体を形成するかは解かっていない。例えば、今注目を集 めている万能細胞が現実の物となれば人体の細胞増殖メカニズムも 明らかになり、多くの難病の治療法も明らかになるだろうが、未だ人間 はそれを手に入れていない。 しかし確実なのは、口から入った物がなんらかの必要な手順を踏ん で、血液や体になること。体にとって不必要な物や使われて不必要に なったものは、尿や便、皮膚からの老廃物や吹き出物として体外に排 泄されると言うことである。すなわち、確実なのは身体に必要な食べ物 が入って、不要な物が出てゆくこと。それがスムーズならば生命を維持 できることである。 そして、我々ホームヘルパーの仕事の原則は、食事、排泄、清潔だか ら、人間の基本的生存自体を担っていることになる。仕事自体は簡単 なようでも、一度人が体調を崩せば、食事、排泄、清潔の維持が困難 になるから介護技術が問われる仕事だ。 例えば、食事一つにしても栄養や見た目のことだけではない。誤嚥(う まく飲み込めないで肺の方に食べ物等が入れば肺炎となり重篤な症 状となりうる)や消化不良なども心配されるから、調理技術や食事介助 の善し悪しが問題になる。ましてや要介護状態となれば、日常的に何 か支障をきたしているわけだから、食事、排泄、清潔を順調にしていく ことは容易な事とは言えず、長期居宅生活の基礎であるからホームヘ ルパーの原則となっている。 さて、利用者さんの状態は様々だ。ご近所なら外出できる人もあれば、 寝たきりの人、身体的にはそうでなくとも不安の大きな人などがある。 また、食欲がない人、食欲があっても誤嚥の可能性が高い人、排泄が 順調でない人もいる。それに、病気を発症し、症状に苦しむ人もいると 思う。 しかしどんな場合でも、利用者さんが食事、排泄、清潔が確保できれ ば、その利用者さんは今日生活できるのである。もっと言えば、他の事 はどうであれ、食事を食べることが出来れば、今日も何とか命をつな げて生活出来るのである。 だから、この仕事を始めて、食事がいかに大切かを改めて思い知っ た。食事が順調なら何とかなる。しかし、偏食であったり、食事時間が まちまちであると体調不良や病気が絶えない。それに、生活習慣病と はよく言ったもので、食習慣が命さえも縮める原因であることも多い。 では、何を食べればよいか?ホームヘルパーは何に気をつけて食事 を用意すればよいか?この点については、テレビや様々なメディアで、 「○○によい食品」などと日々紹介されており、話題には事欠かないだ ろう。番組等で紹介された商品が、売り切れや品薄で、騒ぎになること もある。何もかも信じてそれに乗ることも出来ないだろう。しかしその中 でも、私が食事の基本ではないだろうかと思うのは、一日30種以上の 食材を摂ろうと言う事と、主食の炭水化物に動物性タンパクと緑黄色 野菜に根菜類、イモ類をバランスよく摂ろうと言うこと位である。○○エ キスなど特別な物を食べようなどと言うものは、それはそれでよいのだ ろうが、様々な人を対象にしなくてはいけないホームヘルパーには不 向きであるし、高価な物も毎日は使用できないからである。 しかし、この一日30種やバランスよい食事についても、動物性タンパク には否定的な考え方もあり、厳密な主食中心主義から考えると間違い であるから、一概にそれを押し付けることは出来ない。そのような考え の利用者さんの場合は、より一層の工夫が必要になるだろう。それど ころか、日本人の塩分摂取量についても、塩分が多いとの主張と、そ うでもないとの主張があるので、注意深い観察と検討が必要になると 言う具合である。 だから、私はこれで万全と言う食事をここで発表するわけにはいかな い。しかし、私の知りうる経験を基に、ある程度の理論を交えながら、 ホームヘルパーの提供する食事について皆さんと考えていきたいと思 う。 |