くも細かく刻んだおかずとお粥で食事をとっている。施設に居た頃のおかず はどんなだったかはわからないが「いつもドロドロしたおかずで何を食べて いるのか解からない」と嘆いていた。 施設や病院での刻み食やミキサー食は個々の事情や考え方でマチマチだ ろう。ある看護師さんからこんな質問を頂いたことがある。「患者さんが刻ん だ食事を食べないがどうしたらいいだろう」との質問だ。聞くと病院から出さ れた普通の食事を自分で刻んでいると言う。重ねて聞いてみた「それを食 べてみましたか?」答えは「否、食べていません」。 病院側の規則であって、患者さんの食事は食べてはいけないことになって いるという。不心得者が患者さんの余った食事で、自分の食事を済まして いたことが原因のようだ。 しかし、食事介助する人がその食事の味や柔らかさ、食べ心地、喉通り等 をまったく知らないでは良い食事介助は出来るわけがない。一般的に言っ てもその店の従業員がその店の料理の味を知らない店には行きたくはな い。 この話のように普通食を刻んだ場合、一般的には味が薄くなる。 これは、多くの場合、おかずには味の濃い部分と薄い部分があり、人間が 食べた時、その濃い部分が薄い部分と混ざらないうちに味覚を感じるので 美味しく感じる。しかし刻んだり、ジューサーにかけたりすると、濃い部分と 薄い部分が混ざり、味が均一になる。 だから、同じ調味料の量でも薄く感じることになるのだ。食事を刻んだ場合 は必ず刻んだ後に味見をして調整する必要がある。そうでなくとも、何かの 間違いで変質したり腐敗したりしている場合もあるから安全のためにも、正 常な味は知っておき味見はするべきだ。 さて、刻み食でなくとも、私たちホームヘルパーの食事提供の大半は、柔ら かな調理技術が不可欠になる。 だが、柔らかければいいかと言うと柔らかいが窒息の原因になる餅のよう なものもあるから難しい。餅がどうして窒息の原因になるかと言うと、喉の 粘膜にくっ付いてしまうからだ。だから餅を小さく切っても餅の粘着性で、気 道の入り口あたりにくっ付いてしまえば、気道を塞いで息が出来なくなってし まう。餅は避けた方が無難だ。 では、粘着性のないものなら小さく切ればいいかと言うと、小さく切ってもそ の一片一片がバラバラでまとまりがなければ危険である。たとえば細かくし たポテトチップを口に含んだとする。口の中を息が通ったとき吸い込む息で その一片が気道の方に吸い込まれれば、咳き込む。酷い場合は呼吸困難 になるから要注意だ。また、柔らかいが噛み切れないと言う食べ物もある。 その代表は干し椎茸を煮た物だ。舌触りは柔らかいが、よほどしっかりした 入れ歯でないと噛み切れない。そうこうしている内に、喉の奥にすっぽり! 詰まってしまうこともあるので気をつけたい。 結局の話、指か爪でつぶせたり切れたりできるように柔らかくするのが理 想だろう。近年では、衛生面や感染の問題からしないかも知れないが、昔 は自分の口で柔らかくして唾液の混ぜた食べ物を赤ちゃんに食べさせた。 歯がなかったり、その機能が不十分な人が食べやすい物はそのような物 だ。また一度口の中で噛み砕いたものは十分に唾液と混ざっているから食 塊に容易にすることが出来る。食塊とは、口の中で咀嚼の終わった段階 に、食べ物をまとめて舌の奥に作る塊である。この塊にすることによって飲 み込みが可能になるわけだ。 結論的に言えば、歯の機能や唾液の量に問題があっても、調理で食塊が 出来るように食べ物が仕上がっていればいいのである。前歯に問題がある なら、奥歯の所に入れることが出来るまで小さくする。あまり小さ過ぎれば バラバラになり奥歯で潰すことが返って困難になるから、舌で食べ物をまと めやすい5ミリから8ミリ角位がいいと思う。 奥歯にも問題があるなら、へらで食べ物を叩く。食べ物を叩く作業を汁の中 ですれば、水分も十分に補給できるので唾液の問題も解決する。この叩く と言う作業で細かく切るという作業を兼ねることも出来る。またさっと茹でて から冷やしながら叩けば色合いを損なうことも少ないし、調理済みの最終 段階で叩くことも可能である。 さて、柔らかく食べやすい調理法はいろいろあるようでソフト食との呼び名 が流行のようだ。ゼラチンを使ったムースのようなもの、真空調理法で食物 繊維分解酵素を利用して形を崩さず柔らかくする方法、低温調理法、高圧 調理法など様々な研究がなされている。 どれを取っても一長一短だろうし、価格面も気になるところだ。なにしろ毎 日のことであるから、多様なメニューと少量の調理に利用できなければそ の調理法は難しい。 だから私は、出来るだけ特別な器具や材料を使用しないで出来るこのやり 方を実践している。まだまだ研究段階で毎日が試行錯誤であるが紹介して みた。 |