は豚肉でも高価な物だったこともあって、魚の煮付けが食卓によく出 た。当時は、近海でも様々な魚が獲れていたようで、種類も豊富だっ た記憶がある。小さな魚も煮付けになってお皿にのってくるのだが、 骨が多く食べるところが少なかったように思う。それでも兄や姉達は 箸を上手に使って食べたが、幼い私は食べ辛かった覚えがある。し かし、魚の煮汁は旨かった。魚の煮汁があればご飯を何杯でも食べ られるように思った。魚の煮汁には魚から溶け出したゼラチンが含ま れているので、冬などは一晩でプルンと固まり、煮こごりになった。こ の煮こごりは、魚屋でも売られていてお得意さんも付いていたよう だ。 今は魚も切り身が主流で、尾頭付きを煮ることは少ないようだ。しか し、昔は小さな魚が多くて、それをさばくわけにもいかないので、うろ こを取っただけで頭つきで煮た。だから、煮汁(煮こごり)には、魚の 身の部分だけでなく皮や骨の成分も溶け出していることになるので、 様々な栄養素が溶け出しているわけである。たとえ今のように切り身 魚を煮るにしても、皮は付いているだろうし骨も付いている場合もあ るから、流行のコラーゲンやカルシウムも豊富に含まれていると思 う。 さて、介護では寝たきりにさせないことが重要だ。もし、寝たきりにな ってしまったら、今度は床ずれ(褥瘡)を作らないことが重要なことに なる。ベッドメイクでは、シーツのしわは床ずれ(褥瘡)の原因になる のでしわを作らないでピンと張ることと教えられた。体位変換も重要 なこと。体の向きを変え、下になる部分を定期的に入れ換えること は、褥瘡を予防するのに重要と教えられた。しかし、それにもまして 重要なことは、褥瘡が出来ないように栄養を十分に摂ることである。 実際に寝たきり状態で、どんなにベッドメイクや体位変換をきちんとし ても、褥瘡が出来てしまうことがある。徐圧や摩擦軽減しても栄養が 不十分なら褥瘡は出来てしまうし、褥瘡が出来たら治らないのであ る。 体の組織を維持し、日々の新陳代謝が出来る栄養分は平常時でも 必要である。もし褥瘡が出来てしまったのなら、平常時の栄養分+ 褥瘡の傷を修復するに足る栄養分になる。もっと言えば、なくなって しまった皮膚や下部組織が再生出来るだけの材料を、血液を通して その傷口まで運び、修復できる栄養分が余分に必要なのだ。皮膚な ど損傷を受けている組織の材料や修復に足りる栄養とは何で、どれ だけ必要か?私にはそれを科学的に説明するだけの知識も経験も ない。 しかし、魚の煮こごりや鶏皮のスープを出来るだけ毎日食事に取り 入れていけば、褥瘡の心配は非常に少なくなることは経験した。それ に褥瘡が出来てしまう利用者さんの栄養状態とは、褥瘡以外の健康 維持も図れない栄養状態と考えるべきであろうと思う。反対に言え ば、褥瘡の出来ない栄養状態、褥瘡や傷が出来てもすぐに治る栄養 状態なら栄養は足りていると言えるのかもしれない。 魚を食べてしまえば、煮汁は捨ててしまう人がほとんどだろう。魚に 限らず、食べやすく美味しいところだけを切り取って食べてしまうこと が多い今の調理法や食生活は、本当の贅沢だろうか?皮や骨、芯 や根っこ、今は当然のように捨ててしまうところにも人間の体作りに 欠かせない物があるような気がしてきた。 |